特徴について
ぜん息は気道に慢性のアレルギーが原因の炎症が生じて、さまざまな原因で気道が狭くなり呼吸が苦しくなる病気です。ぜん息には、ダニやカビなどの環境のアレルゲンに反応する「アトピー型ぜん息」と、アレルゲンに反応しない「非アトピー型ぜん息」があります。小児ではアトピー型が多く、成人になるとアトピー型と非アトピー型が半々になるという特徴があります。気道炎症の原因となるさまざまな危険因子の回避とともに、吸入ステロイド薬などでアレルギー性の炎症をしずめる抗炎症治療が必要です。
症状について
ぜん息ではわずかな刺激にも気道が狭くなりやすくなり、「ゼーゼー、ヒューヒュー」と気道が鳴るように聞こえる「ぜん鳴」や、息切れ、咳、胸が締めつけられるような症状などがあらわれます。
ぜん息治療(長期管理)が不十分になると気管支粘膜の炎症が続くことで組織の線維化が進み、気管支が硬くなり(「気道リモデリング」といいます)、こうなると元の状態に回復しにくくなります。気道リモデリングはぜん息の慢性化・難治化につながるといわれ、これを予防するためにもアレルギー性の炎症を抑える治療を早期から継続する必要があります。
ぜん息の発作は、夜間や早朝に起こりやすいという特徴があります。また、季節の変わり目など前日よりも気温が低下するとき、台風など気象条件が大きく変化するとき、疲労が蓄積しているとき、かぜやインフルエンザなどの感染症にかかったとき、タバコ、線香、花火などの煙や強い臭いなどの刺激を受けたときに急に悪化することがあります。
重症度について
ぜん息症状を基本として重症度を判定します。ピークフロー値や1秒量などの呼吸機能も参考にします。ぜん息の重症度に応じて治療の程度などを決めるために、重症度を評価することはとても重要です。
- ・軽症間欠型:症状が毎週はない状態です。
- ・軽症持続型:症状が毎週あるが毎日ではない状態です。
- ・中等症持続型:症状が毎日あるが日常生活に支障はない状態です。
- ・重症持続型:症状が毎日あり日常生活に支障を来している状態です。
呼吸困難の程度は、①苦しいが横になれる「軽度」、②苦しくて横になれない「中等度」、③苦しくて動けない「高度」と、3つに分類します。
治療について
診療ガイドラインに示されている
「喘息治療ステップ(成人)」
『喘息予防・管理ガイドライン2018』を改変
ぜん息の治療には、大きく分けて3つあります。「ぜん息発作を治す治療(発作治療薬)」と「気道のアレルギー炎症を抑える治療」、そしてダニやホコリを減らす「環境整備」です。ぜん息発作を治す治療は、狭くなった気道を拡げる治療で、気管支拡張薬が使われます。気道のアレルギー性の炎症を抑える治療は「長期管理薬」と呼ばれ、吸入ステロイド薬や吸入ステロイド薬と長時間にわたって効果が持続する気管支拡張薬を組み合わせた配合薬をいいます。
これらの薬をぜん息発作がないときも毎日治療を継続することで、気道のアレルギーの炎症をしずめて、ぜん息発作が起きにくくなります。長期管理薬の服用は、ぜん息発作がないからといって自分の判断でやめてはいけません。副作用が出ないように複数の薬を組み合わせて用いて、抗炎症治療により組織が線維化する気道リモデリングが進むのを防ぎ、最終的にはぜん息の悪化による死亡を防ぎます。
(1)成人ぜん息の治療の進め方
ぜん息は、医師や看護師などとチームになって治療(発作治療と長期管理)を進めていきますが、患者さん自身が主体的に自己管理をしていくことが大切です。抗炎症治療を進めながら悪化原因を回避するための環境整備を進めていきます。
よい自己管理は、必ずよい結果(治療目標の達成)につながります。
(2)成人ぜん息の治療の目標
ぜん息の治療(長期管理)の目標は、「症状のコントロール(発作やぜん息症状がない状態を保つ)」、「将来のリスク回避」の2点に集約されます。具体的には、気道炎症の原因となる危険因子を回避・除去して、薬物療法による気道炎症の抑制と十分な気道拡張(可能な限り正常に近い呼吸機能)を達成することを目標とします。
(3)成人ぜん息の治療薬
①ぜん息発作をしずめるときの薬(発作治療薬)
短時間作用性吸入β2刺激薬:狭くなった気道を拡げる気管支拡張薬です。普段は長期管理薬を服用して、ぜん息が悪化して発作が起きたときに吸う薬です。苦しい呼吸が一時的によくなりますが、この治療では気道のアレルギー性の炎症を抑えることができません。また、1日に何回も使用すると心臓への負担もあるので注意が必要です。
◎代表的な薬剤の商品名(製薬会社):
メプチン(大塚)、
ベロテック(日本ベーリンガー)、
スピロペント(帝人ファーマ)など
②気道のアレルギー性の炎症を抑える薬(長期管理薬)
長期管理薬は、ぜん息の発作をすぐに止める薬ではなく、ぜん息の発作が出ないように「予防する薬」です。長い期間にわたって服用して効果が得られます。症状がおさまっても空気の通り道(気道)の炎症は続いています。症状がなくなってもやめずに医師の指示通りに続けてください。
長期管理薬の種類と
代表的な薬剤
吸入ステロイド薬 |
ぜん息は気道にできたアレルギー性の炎症が原因なので、この炎症をしずめると発作が起きにくくなります。炎症をしずめる薬でいちばん効果があるのがステロイド薬で、治療ではステロイド薬を炎症に直接届くように粉・霧の状態にして吸い込みます。ステロイド薬は粉・霧にして吸い込むことで、副作用を錠剤のおよそ100分の1に減らすことができ、全身性の副作用はほとんどありません。英語では「inhaled corticosteroid」といい、「ICS」と呼ばれることがあります。ぜん息の重症度に応じてステロイドの量が3段階(低用量、中用量、高用量)に分けられています。
【吸入ステロイド薬の剤形】
- ・ドライパウダー製剤:ドライ・パウダー・インヘラー(dry powder inhaler)の頭文字をとって「DPI」と省略して呼ばれます。取り扱いが簡単で、5歳くらいから吸入することができます。代表的な薬剤の商品名(製薬会社):「フルタイド」(グラクソ・スミスクライン)、「パルミコート」(アストラゼネカ)、「アズマネックス」(MSD)、「アニュイティ」(グラクソ・スミスクライン)
- ・加圧定量噴霧式吸入器:英語では「pressurized metered dose inhaler」といい、「pMDI」と呼ばれることがあります。幼児でも吸入することができます。小児では吸入補助具「スペーサー」が用いられます。「キュバール」(大日本住友)、「フルタイド」(グラクソ・スミスクライン)、「オルベスコ」(帝人ファーマ)
- ・吸入懸濁液:乳児や高齢者でも電動ネブライザーなどで吸入することができます。「ブデソニド吸入液0.5mg武田テバ」(武田テバファーマ)
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抗アレルギー薬 |
- ・ロイコトリエン受容体拮抗薬:吸入ステロイド薬よりも効果は弱いものの炎症をしずめます。重症度の高い患者さんには吸入ステロイド薬などと組み合わせられることもあります。英語では「leukotriene receptor antagonist」といい、「LTRA」と呼ばれることがあります。「オノン」(小野)、「シングレア」(MSD)、「キプレス」(杏林)
- ・ロイコトリエン受容体拮抗薬以外の抗アレルギー薬:アレルギー性の炎症を起こす物質や気管支収縮をおさえる物質ができるのをおさえる薬です。薬には、メディエーター遊離抑制薬(「インタール」(サノフィ)、「リザベン」(キッセイ)、「アレギサール」(田辺三菱)、「ペミラストン」(アルフレッサファーマ))、ヒスタミンH1受容体拮抗薬(「アゼプチン」(エーザイ)、「セルテクト」(協和発酵キリン)、「ゼスラン」(旭化成ファーマ)、「アレジオン」(日本ベーリンガー)、「ザジテン」(サンファーマ)など)、トロンボキサンA2合成阻害薬(「ドメナン」(キッセイ))、トロンボキサンA2拮抗薬(「ブロニカ」(武田))、Th2サイトカイン阻害薬(「IPD」(大鵬))などがあります。
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気管支拡張薬 |
- ・テオフィリン徐放製剤:気管支を拡張させる作用があり、軽い気管支の炎症をおさえる効果もあります。徐放製剤は、ゆっくり吸収されて効果が長く持続するように作られています。「テオドール」(田辺三菱)など
- ・長時間作用性β2刺激薬:長時間にわたって気管支を拡げる作用が持続する薬です。長期管理薬としてこの薬だけが処方されることはなく、「吸入ステロイド薬/長時間作用性β2刺激薬配合剤」として処方されます。代表的な薬剤の商品名(製薬会社):「セレベント」(グラクソ・スミスクライン)など
- ・吸入ステロイド薬/長時間作用性β2刺激薬配合剤:1回の吸入で炎症をしずめて、気管支を拡げる作用があります。比較的重症度の高い患者さんに処方されます。「アドエア」(グラクソ・スミスクライン)、「シムビコート」(アストラゼネカ)、「フルティフォーム」(杏林)、「レルベア」(グラクソ・スミスクライン)など
- ・長時間作用性抗コリン薬:気管支が収縮するときに関与するアセチルコリンという物質をブロックして気管支収縮を抑えます。英語では「long-acting muscarinic antagonist」といい、「LAMA」と呼ばれることがあります。「スピリーバ」(日本ベーリンガー)など
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生物学的製剤 |
治療でもコントロールができないような難治性で重症の患者さんに使用される注射の薬で、体内のアレルギー反応をおさえてぜん息症状を改善します。現在、抗IgE抗体(オマリズマブ 「ゾレア」(ノバルティス))、抗IL-5抗体(メポリズマブ 「ヌーカラ」(グラクソ・スミスクライン))、抗IL-5Ra抗体(ベンラリズマブ 「ファセンラ」(アストラゼネカ))、抗IL-4受容体抗体(デュピルマブ 「デュピクセント」(サノフィ))があります。これらの薬はぜん息の治療に精通した医師の指導のもとで使用する必要があります。 |
経口ステロイド薬 |
ステロイド薬の副作用を避けるために短期間の使用を原則として、それでもコントロールが得られない場合は必要最小量を維持量として使用されます。「プレドニゾロン」「プレドニン」など |
気管支熱形成術 |
気管支をあたためて平滑筋を減らすことで気管支収縮を減らします。18歳以上の重症の患者さんが対象で、日本呼吸器学会や日本アレルギー学会の専門医が検討のうえで、日本呼吸器内視鏡学会気管支鏡専門医の指導の下で入院治療において行われます。 |
(4)環境整備
アトピー型のぜん息では、ダニやホコリがぜん息発作の悪化する要因として重要です。自宅の環境を整備してダニやホコリを減らすことで、ぜん息発作が起こりにくくすることができます。
(5)成人ぜん息の悪化予防・自己管理
ぜん息の発作は、気道にあるアレルギー性の炎症に、さまざまな悪化する要因が重なって起こります。たとえば、前日よりも3℃以上低下するなどの気象の変化やストレス、タバコの煙や激しい運動、大きな感情の起伏も要因になります。長期管理薬をきちんと服用したうえで、睡眠を十分にとり、ストレスを解消する工夫をして、悪化する原因を減らしていくようにしましょう。かぜなどの呼吸器感染症も悪化する要因になりますので、手洗いやマスクの着用を心がけて予防しましょう。
自己管理のために、ピークフロー(PEF)メーターによるPEFモニタリングや、「ぜん息日記」などに症状や体調、日常生活などについて記録することも大切です。これにより、どのような状況でぜん息が悪化しやすい(発作が起こりやすい)かなどを把握することができます。この記録(日記など)を医師に見せることによって診断や治療の助けとなります。薬の選択が適切かどうか、ぜん息のコントロールができているか、副作用が出ていないかなど、ぜん息治療を進めるうえでの貴重な情報となります。
(6)「ぜん息日記」に記入する内容
- ①症状によって夜眠れなかったり、夜間や早朝に目覚めたりすることはありましたか。
- ②日中のぜん息症状:日中、咳や息苦しさなどのぜん息症状がありましたか。
- ③日常活動への影響:ぜん息症状により勉強や仕事、家事などが思うように進められないことがありましたか。
- ④発作治療薬の使用:発作止めの薬剤を使用しましたか。
- ⑤長期管理薬の使用:長期管理薬はきちんと服用できましたか。
- ⑥そのほかにどのような症状が現れたか、どのような活動を負担に感じたかを具体的に記録しておいてください。
※「ぜん息日記」は、環境再生保全機構に申し込むと無料で入手できます。
https://www.erca.go.jp/yobou/pamphlet/form/index.html
(7)ピークフロー(PEF)
PEFを毎日(朝、夜)測定することで、ぜん息症状がコントロールされているかどうかを把握できます。PEFメーターは、できるだけ速く息を吐き出すときの測定値(呼出速度)で呼吸機能を評価します。気道のアレルギー性の炎症が悪化して気道が狭くなっていると測定値は低くなり、呼吸機能の低下を示します。患者さんごとの「自己最良値」を指標として、測定値の推移から医師が長期管理薬の種類や用量を選定するときの参考にします。測定値の高低で一喜一憂する必要はなく、低値で推移していても上昇傾向が認められる場合はよいのですが、高値で推移していても「前日よりも低下したとき」が“体調が悪化する”サインである可能性があるので、医師と状況を共有して、上手に体調を管理してください。
(8)ぜん息のアクションプランシート(ぜん息個別対応プラン)
ぜん息の発作が起きたときにどうすればよいか、朝と夜に測っているピークフロー(PEF)測定値が低くなったときにどう対応すればよいかなど、体調が変化したときの対応(アクションプラン)を、医師と相談してあらかじめ決めておきましょう。PEF測定値がいくつになったら発作止めの薬を服用するか、それとも受診するかなどを相談しておきます。
環境再生保全機構の
アクションプランシート