アトピー性皮膚炎は、強いかゆみのある湿疹ができて、症状が悪くなったり良くなったりを繰り返す病気です。アレルギーの病気を持つ家族がいる場合や自身にぜん息やアレルギー性鼻炎などのアレルギーがある人、またはアレルギーの原因となるIgE抗体を作りやすい素因を持つ人がなりやすい傾向があります。また、私たちの身体を守る皮膚の「バリア機能」が低下して炎症が起きやすくなることや、皮膚から水分が失われやすくなるために、乾燥肌の患者さんが多いこともアトピー性皮膚炎の特徴です。
アトピー性皮膚炎は、適切な治療により症状がコントロールされた状態が長く維持されると、症状がなくなる寛解(かんかい)が期待できる病気です。患者さんの生活環境や生活習慣などによっては再び症状があらわれることがあるために「治った」とはなかなかいえません。ただし、アトピー性皮膚炎を長期間にわたって調べたデータによると、年齢とともにある程度の割合で寛解することや、症状が軽い患者さんほど寛解する割合が高いこともわかっています。治療は、①症状がないかあっても軽微で、日常生活に支障がなく、薬物療法もあまり必要としない状態に到達・維持すること、②軽い症状は続くけれども急激に悪化することはまれで、悪化しても症状が持続しないことを目標に進められます。
アトピー性皮膚炎は、①薬物療法、②皮膚の生理学的異常に対する外用療法・スキンケア、③悪化因子の検索と対策を三本柱として治療を進めます。個々の患者さんごとに症状の程度や背景などを考え合わせて適切に組み合わせることになります。アトピー性皮膚炎は複雑な多くの原因が背景にある病気ですので、完治させる治療法は現在のところありません。ただし、薬で炎症をしずめることで皮膚の炎症によるバリア機能のさらなる低下を防ぐことができます。前の項目で述べられているように、目標に向けて根気強く治療を進めていきましょう。
かつてステロイド外用薬やタクロリムス外用薬が“怖い薬”だと誤解された時代がありました。いまでも不安を感じる患者さんがいますが、十分に有効性と安全性が科学的に検証されていますので、医師の指示に従って安心して使ってください(非ステロイド性抗炎症薬・NSAIDsの外用薬がありますが、こちらは抗炎症効果がきわめて弱いうえ、接触皮膚炎を生じることがあるため、アトピー性皮膚炎にはあまり使われません)。アトピー性皮膚炎の炎症は速やかに、確実にしずめることが重要で、そのためにステロイド外用薬とタクロリムス外用薬を組み合わせて治療を進めていきます。
1)ステロイド外用薬
2)タクロリムス外用薬
3)プロアクティブ療法
アトピー性皮膚炎の特徴でもある、よくなったと思ったら皮膚症状が繰り返す皮疹に対して、十分な抗炎症治療で症状を抑えた後に、保湿外用薬によるスキンケアに加えて、ステロイド外用薬やタクロリムス外用薬を定期的(週2~3回)に塗って症状が抑えられた状態を維持する治療法です。
アトピー性皮膚炎では、炎症が軽快して正常に見えても、皮膚の深い部分に炎症が残っていて再び炎症が生じやすい状態にある場合が多いため、これを予防する目的で行います。
4)その他の治療法
抗ヒスタミン薬、免疫抑制薬(シクロスポリン)や経口ステロイド薬、紫外線療法などがあります。
1)保湿薬
アトピー性皮膚炎は皮膚のバリア機能が低下して乾燥肌になり、炎症が生じると皮膚のバリア機能がさらに低下して乾燥肌がより進んでしまいます。ステロイド外用薬やタクロリムス外用薬は炎症を低減させますが、保湿力はほとんどありません。
つまり、アトピー性皮膚炎の治療では「乾燥肌を治療するための保湿薬」と「皮膚の炎症を治療するステロイド外用薬やタクロリム外用薬」の両方が同じくらい重要です。
2)食べ物
アトピー性皮膚炎に食べ物(食物アレルゲン)が関与する場合がまれにありますが、食物アレルギーの関与が明らかでない小児・成人のアトピー性皮膚炎の治療にアレルゲン除去食は有用ではありません。小児の食べ物の除去は成長や発達の障害になることがあるので、食物アレルギーの関与を明らかにして、医師の指導のもとで除去食療法を受けてください。
◎妊娠・授乳:2000年に米国小児科学会は妊娠している人へアレルゲン除去食を推奨しましたが、2012年には妊娠・授乳している人の食事制限は生後から18か月児までのアトピー性皮膚炎の発症を抑える効果がないことや妊娠中の場合は未熟児のリスクが高まることなどが確かめられました。
3)生活環境
ダニやホコリ、花粉、ペットの毛などの環境アレルゲンで皮膚炎が悪化することがあります。また、化粧品や金属などの接触アレルギーで皮膚炎が悪化することもあります。医師と相談のうえで環境アレルゲンや接触アレルゲンを回避していきましょう。さらに、汗や唾液、毛髪、衣類の摩擦などの刺激でも皮膚炎が悪化することがあります。唾液や汗は洗い流すか濡れたやわらかい布でふき取り、毛髪は短く切りそろえるか束ねて、刺激の少ない衣類を選びましょう。
汗をかいたらやわらかいタオルなどでよく拭きます。炎天下などでは日焼けがアトピー性皮膚炎の悪化の原因になる場合があるので、長時間にわたって太陽にあたらないようにしましょう。
望ましい室内環境の整備の例を挙げます。
4)ストレス
アトピー性皮膚炎には心身医学的な側面が3つあります。①ストレスで皮膚炎が悪化する場合、②強いかゆみや皮膚症状が原因で心理的に追い詰められて、よく眠れなかったり人に会いたくなくなったりする場合、③薬への不安や医療への不信感、なかなか症状がよくならないことで無力感から医師の指示を守らなかったり自分の判断で治療を中断してしまったりする場合、です。これらは相互に関連し合うことが多いので、自分だけで抱え込まずに率直に医師へ相談しましょう。
5)合併症
アトピー性皮膚炎は皮膚バリア機能が低下するために皮膚感染症にかかりやすくなっていますので、皮膚を清潔に保ってスキンケアを心がけましょう。