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アトピー性皮膚炎

プロアクティブ療法などを詳しく解説しています。

1.アトピー性皮膚炎の特徴

アトピー性皮膚炎は、強いかゆみのある湿疹ができて、症状が悪くなったり良くなったりを繰り返す病気です。アレルギーの病気を持つ家族がいる場合や自身にぜん息やアレルギー性鼻炎などのアレルギーがある人、またはアレルギーの原因となるIgE抗体を作りやすい素因を持つ人がなりやすい傾向があります。また、私たちの身体を守る皮膚の「バリア機能」が低下して炎症が起きやすくなることや、皮膚から水分が失われやすくなるために、乾燥肌の患者さんが多いこともアトピー性皮膚炎の特徴です。

2.アトピー性皮膚炎の治療目標

アトピー性皮膚炎は、適切な治療により症状がコントロールされた状態が長く維持されると、症状がなくなる寛解(かんかい)が期待できる病気です。患者さんの生活環境や生活習慣などによっては再び症状があらわれることがあるために「治った」とはなかなかいえません。ただし、アトピー性皮膚炎を長期間にわたって調べたデータによると、年齢とともにある程度の割合で寛解することや、症状が軽い患者さんほど寛解する割合が高いこともわかっています。治療は、①症状がないかあっても軽微で、日常生活に支障がなく、薬物療法もあまり必要としない状態に到達・維持すること、②軽い症状は続くけれども急激に悪化することはまれで、悪化しても症状が持続しないことを目標に進められます。

3.アトピー性皮膚炎の治療の進め方

アトピー性皮膚炎は、①薬物療法、②皮膚の生理学的異常に対する外用療法・スキンケア、③悪化因子の検索と対策を三本柱として治療を進めます。個々の患者さんごとに症状の程度や背景などを考え合わせて適切に組み合わせることになります。アトピー性皮膚炎は複雑な多くの原因が背景にある病気ですので、完治させる治療法は現在のところありません。ただし、薬で炎症をしずめることで皮膚の炎症によるバリア機能のさらなる低下を防ぐことができます。前の項目で述べられているように、目標に向けて根気強く治療を進めていきましょう。

4.アトピー性皮膚炎の炎症と薬

かつてステロイド外用薬やタクロリムス外用薬が“怖い薬”だと誤解された時代がありました。いまでも不安を感じる患者さんがいますが、十分に有効性と安全性が科学的に検証されていますので、医師の指示に従って安心して使ってください(非ステロイド性抗炎症薬・NSAIDsの外用薬がありますが、こちらは抗炎症効果がきわめて弱いうえ、接触皮膚炎を生じることがあるため、アトピー性皮膚炎にはあまり使われません)。アトピー性皮膚炎の炎症は速やかに、確実にしずめることが重要で、そのためにステロイド外用薬とタクロリムス外用薬を組み合わせて治療を進めていきます。

5.アトピー性皮膚炎の主な治療薬と治療法

1)ステロイド外用薬

(1) 薬の特徴:ステロイド外用薬は薬の中で最も効果的に炎症を抑えます。①ストロンゲスト、②ベリーストロング、③ストロング、④ミディアム、⑤ウィークと、強い順に①から⑤まで5つのランクに分類されています。剤形は、外用薬、クリーム、ローション、テープがあります。髪の毛のある頭部にはローションが塗りやすく、外用薬のべとべと感が嫌いな人にはクリームが使われることがあります。ローションを顔や体に塗っても構いません。テープ剤はひび割れや皮膚表面が固くなった部位に使われることがあります。

(2) 塗り方:人差し指(第2指)の先端から第1関節部まで口径5mmの外用薬チューブから押し出された量(約0.5g)が成人の手掌(てのひら)2枚分で成人の体表面積の2%に対する適量です。たとえば、子どもに成人の手掌で5個分の皮膚症状があれば、1日に1回塗るとして4日間で5gチューブを1本使用します。塗り始めて3~4日で赤みやかゆみが治まりますが、赤みが取れても指でつまんで硬いところは柔らかくなるまで(医師の指示にしたがって)10日から2週間くらい、さらに塗ります。

(3) 副作用:ステロイド外用薬を医師の指示にしたがって適切に使用すれば、内服薬で生じることがある副腎不全、糖尿病、成長障害などの全身的な副作用はありません。局所的な副作用としてはステロイド紅斑(こうはん)や皮膚萎縮(いしゅく)などが生じることはありますが薬の中止や適切な処置により回復します。アトピー性皮膚炎で認められる色素沈着は炎症が鎮静して生じるもので、ステロイド外用薬が原因ではありません。

2)タクロリムス外用薬

(1) 薬の特徴:身体の免疫反応が高まっている状態を正常に整えることで皮膚の炎症を抑えます。炎症を抑えるメカニズムが異なるのでステロイド外用薬で治療が困難な場合に有効です。ステロイド外用薬の長期間の連用で報告されている皮膚萎縮や毛細血管の拡張がありません。塗ると、かゆみやヒリヒリするなどの刺激が生じますが、皮膚の状態がよくなると次第におさまります。皮膚がじゅくじゅくしているところや口・鼻の中の粘膜部分や外陰部には塗らないでください。

(2) 塗り方:皮膚から吸収されやすい顔や首(頸部)、そしてステロイド外用薬で部分的(局所性)に副作用があらわれやすい部分などに塗ります。

(3) 副作用:熱感、痛み、かゆみ、毛嚢炎(細菌による感染症)などが確認されていますが、多くは皮疹の改善に伴って軽減、消失します。

3)プロアクティブ療法
アトピー性皮膚炎の特徴でもある、よくなったと思ったら皮膚症状が繰り返す皮疹に対して、十分な抗炎症治療で症状を抑えた後に、保湿外用薬によるスキンケアに加えて、ステロイド外用薬やタクロリムス外用薬を定期的(週2~3回)に塗って症状が抑えられた状態を維持する治療法です。
アトピー性皮膚炎では、炎症が軽快して正常に見えても、皮膚の深い部分に炎症が残っていて再び炎症が生じやすい状態にある場合が多いため、これを予防する目的で行います。

4)その他の治療法
抗ヒスタミン薬、免疫抑制薬(シクロスポリン)や経口ステロイド薬、紫外線療法などがあります。

6.アトピー性皮膚炎の悪化予防

1)保湿薬
アトピー性皮膚炎は皮膚のバリア機能が低下して乾燥肌になり、炎症が生じると皮膚のバリア機能がさらに低下して乾燥肌がより進んでしまいます。ステロイド外用薬やタクロリムス外用薬は炎症を低減させますが、保湿力はほとんどありません。
つまり、アトピー性皮膚炎の治療では「乾燥肌を治療するための保湿薬」と「皮膚の炎症を治療するステロイド外用薬やタクロリム外用薬」の両方が同じくらい重要です。

(1) 保湿薬の塗り方:保湿薬は入浴後すぐ(5分以内)に塗るのがよいとされています。皮膚が水分を保持している間に保湿薬を塗って水分が逃げないようにするのです。入浴後すぐに塗れずに皮膚が乾いてしまったら、化粧水などで皮膚を湿らせてから保湿薬を塗ると効果的です。
保湿薬は皮疹のあるところだけでなく全身に塗りましょう。指先で塗るのではなく、手のひらに保湿薬を多めにとって、しわに沿って塗ると皮膚に広がりやすくなります。また、季節に関係なく継続してください。

(2) 保湿薬の種類:保湿薬にはさまざまな種類・剤形があります。白色ワセリンなどの油脂は保湿薬の基本で、べたべたしますが刺激がほとんどなく保湿効果が持続します。尿素製剤は炎症がある部分で刺激を感じますが、あまりべたつきません。ヘパリン類似製剤はわずかに特徴的なにおいがありますが、あまりべたつかず塗りやすい特徴があります。剤形は、外用薬、クリーム、ローション、フォーム(泡状)、スプレーなどがあり、皮膚の状態に合わせて使いましょう。

2)食べ物
アトピー性皮膚炎に食べ物(食物アレルゲン)が関与する場合がまれにありますが、食物アレルギーの関与が明らかでない小児・成人のアトピー性皮膚炎の治療にアレルゲン除去食は有用ではありません。小児の食べ物の除去は成長や発達の障害になることがあるので、食物アレルギーの関与を明らかにして、医師の指導のもとで除去食療法を受けてください。

◎妊娠・授乳:2000年に米国小児科学会は妊娠している人へアレルゲン除去食を推奨しましたが、2012年には妊娠・授乳している人の食事制限は生後から18か月児までのアトピー性皮膚炎の発症を抑える効果がないことや妊娠中の場合は未熟児のリスクが高まることなどが確かめられました。

3)生活環境
ダニやホコリ、花粉、ペットの毛などの環境アレルゲンで皮膚炎が悪化することがあります。また、化粧品や金属などの接触アレルギーで皮膚炎が悪化することもあります。医師と相談のうえで環境アレルゲンや接触アレルゲンを回避していきましょう。さらに、汗や唾液、毛髪、衣類の摩擦などの刺激でも皮膚炎が悪化することがあります。唾液や汗は洗い流すか濡れたやわらかい布でふき取り、毛髪は短く切りそろえるか束ねて、刺激の少ない衣類を選びましょう。
汗をかいたらやわらかいタオルなどでよく拭きます。炎天下などでは日焼けがアトピー性皮膚炎の悪化の原因になる場合があるので、長時間にわたって太陽にあたらないようにしましょう。
望ましい室内環境の整備の例を挙げます。

・一般に、カビが増えるのを防ぐためには部屋を換気して湿気がこもらないようにしますが、花粉飛散時期は花粉を室内に入れることになるので、なるべく窓を開けずに除湿機などを活用してください。

・一般に、カビが増えるのを防ぐためには部屋を換気して湿気がこもらないようにしますが、花粉飛散時期は花粉を室内に入れることになるので、なるべく窓を開けずに除湿機などを活用してください。

・寝具は太陽の光を当てて干し、寝具の表面に掃除機をかけます。

・エアコンのフィルターはこまめに水洗いします。

・カーテンは薄い製品を選んでときどき洗濯します。

・家具は壁から少し離してすきまをあけて設置します(ときどき掃除機をかけます)。

・床はカーペットや畳よりもフローリング(板張り)にします。

・ペットは飼わないようにします。

・ソファは布製ではなく革・合成皮革製を選びます。

・観葉植物は置かないようにします。

・ぬいぐるみは毛羽立った製品を避けて表面がツルツルの製品を選びます。

・床はこまめに掃除機をかけます。

4)ストレス
アトピー性皮膚炎には心身医学的な側面が3つあります。①ストレスで皮膚炎が悪化する場合、②強いかゆみや皮膚症状が原因で心理的に追い詰められて、よく眠れなかったり人に会いたくなくなったりする場合、③薬への不安や医療への不信感、なかなか症状がよくならないことで無力感から医師の指示を守らなかったり自分の判断で治療を中断してしまったりする場合、です。これらは相互に関連し合うことが多いので、自分だけで抱え込まずに率直に医師へ相談しましょう。

5)合併症
アトピー性皮膚炎は皮膚バリア機能が低下するために皮膚感染症にかかりやすくなっていますので、皮膚を清潔に保ってスキンケアを心がけましょう。