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アレルギー対策

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ラテックスアレルギー

普段からの予防法などを解説しています。

1.ラテックスアレルギーとは

天然ゴム(natural rubber latex)製品に接触することによって生じる接触部位および全身のじんましん、咳や喘鳴(ゼーゼー、ヒューヒュー)などの呼吸器症状、アナフィラキシーショックなどの即時型アレルギー反応をラテックスアレルギーといいます。天然ゴム製品は、ゴム手袋、カテーテル・絆創膏などの医療用具のほかに、炊事用手袋、ゴム風船、コンドームなどの日用品として日頃から接触する機会が多い製品です。わが国では、天然ゴム製の医療用具については「医薬品等安全性情報No.153」(1999年)により、製品の説明書や容器や包装に、「天然ゴムが使用されていること」と「アレルギーの症状が生じやすいこと」を表示することが義務づけられていますので、天然ゴム製品の識別は可能となっています(https://www.mhlw.go.jp/www1/houdou/1103/h0329-1_15.html)。

<トピックス> ラテックスアレルギーによるアナフィラキシー事例

米国FDAが1992年にラテックスアレルギーの注意を報告するまでに、アナフィラキシーショックによる死亡が15名、アナフィラキシーショックが1,000名以上報告されています。医療従事者がラテックスアレルギーを発症して、咳や喘鳴などの呼吸器症状が誘発された患者さんや、アナフィラキシーを生じたために職場を変更せざるを得なくなった患者さんが欧米だけではなく、わが国でも多数報告され、海外では訴訟となった事例もあります。なお、アナフィラキシーショックによる死亡例の多くは医療機関におけるバリウム浣腸用のカフが原因でした。

2.ラテックスアレルギーの原因物質

ラテックスには、いわゆるゴムの木を原料とする「天然ゴムラテックス」と、石油を原料とする「合成ゴムラテックス」がありますが、広く医療分野でラテックスといえば「天然ゴムラテックス」をいいます。ラテックスアレルギーは、天然ゴムラテックスによるアレルギー反応です。主にパラゴムの木(Hevea brasiliensis)から乳状の液体として得られる「天然ゴムラテックス」にわずか1.5%程度含まれるタンパク質成分がラテックスアレルギーの原因(アレルゲン)となります。
なお、石油を原料とする「合成ゴムラテックス」の製品では、タンパク質は含まないため即時型アレルギー反応の原因とはなりません。

3.ラテックスアレルギーの感作経路

天然ゴム製品に残っているタンパク質(アレルゲン)が皮膚に接触したり汗などにより製品から溶け出でたりすることで、皮膚や粘膜に作用し感作(アレルギーの獲得)が成立します。手の滑りをよくする目的でコーンスターチのパウダーが手袋の内側に塗布されている「パウダー付き天然ゴム製手袋」では、天然ゴムに直接接触する場合だけでなく、多くのラテックスアレルゲンが吸着しているパウダーがゴム手袋を外す際に空中に飛散し、パウダーを吸い込むことでも鼻粘膜などから感作されるともいわれています。なお、手指などの皮膚に湿疹や乾燥があると、皮膚のバリア機能が低くなり、ラテックスアレルギーを発症する傾向が高くなるとされています。

4.ラテックスアレルギーの症状

ラテックスアレルギーで最も多い症状は、天然ゴム製品の接触部位に誘発されるじんましんです。手袋を装着した部分にかゆみや発赤、膨疹、水疱が誘発され、全身性に広がることもあります。最も重篤な場合はアナフィラキシーショックが誘発され、その原因として、ゴム手袋、歯科用デンタル・ダム、バリウム浣腸用のカフ、コンドームが報告されています。呼吸器の症状は、天然ゴムとの接触によって誘発された重症例だけでなく、手袋のパウダーに付着したラテックスアレルゲンを直接気道に吸入した場合に生じることがあります。
また、ラテックスアレルギーの患者さんの中には、果物や野菜を食べたときに、口の中の違和感やピリピリ感、全身の蕁麻疹、時にアナフィラキシーショックなどの即時型アレルギー反応を生じる場合があり、これは「ラテックス-フルーツ症候群」と呼ばれています。ラテックスアレルギーの約半数の患者さんがそのような症状を経験するとされ、ラテックスアレルギーと診断された方は食物への配慮も必要となります。

特に症状を誘発する頻度や誘発された際に症状が重篤とされる果物を下記に示します。

・注意度(高):クリ、バナナ、アボカド、キウイフルーツなど

<全身的な反応が起きる危険性が高いグループ>

・繰り返し手術を受けてきた人、または医療用具・機器による処置を繰り返し長期間にわたって受けてきた人。

・手術中に蕁麻疹や呼吸不全、血圧低下などのアレルギー症状をきたし、原因が明らかになっていない人。

・ラテックス関連の特異的IgE抗体が陽性の人。または、ラテックスアレルゲンを用いたプリックテストが陽性の人。

・天然ゴムと接触した際に、じんましん、鼻水、目のかゆみ、咳、喘鳴などの即時型アレルギー反応を経験したことがある人。

5.ラテックスアレルギーの診断、治療、生活

① 診断

ラテックスアレルギーを診断するためには、ゴム製品との接触によってアレルギー症状が引き起こされた、というエピソードが重要となります。また、バナナやアボカドなどに対するアレルギー歴の確認も重要です。ラテックスアレルギーが疑われた際には、通常血液検査によってラテックス粗抗原とHev b 6.02(へべイン;主要アレルゲン)(CAP-FEIA, Thermo Fisher Scientific社)に対するIgE抗体価を測定します。また、皮膚テストやゴム製品の使用試験を行うこともありますが、これらの検査ではアレルゲンに直接触れることになるため、重篤なアレルギー反応が引き起こされる危険性があり、緊急時の対応が可能な医療機関で検査を受けることが必要です。

以下に該当する方は、ラテックスアレルギーについて医師の診断を受けておくことをお勧めします。

・原因不明のアナフィラキシーショックを経験したことがある人。

・婦人科的な処置などの医療を受けた際や歯科治療中にショック症状が起きた人。

・天然ゴム製品との接触(歯科治療や、あるいは風船、コンドーム、天然ゴム製手袋への接触など)の後にじんましんやかゆみを経験したことがある人。

・天然ゴムとの交差反応性が知られている植物性食品(バナナ、キウイフルーツ、アボカド、クリ、トマト、パパイア、ポテトなど)のアレルギー反応を経験したことがある人。

・何度も手術を受けたことがある人。

・パウダーが塗布された天然ゴム製の手袋を頻回に使用している人、空中に飛散したラテックスアレルゲンを吸い込む機会の多い職業の人。

② 治療(アナフィラキシー)

“だんだん元気がなくなっていくように見える(意識障害)”、“呼吸や心拍が異常に高くないか低くないか、ゆっくりになっていっている(呼吸障害)”、“皮膚の色が赤くなってきている(じんましん)”など、アナフィラキシーを発症した場合は応援を要請するとともに、アドレナリン自己注射薬(エピペン®)(Mylan社、https://www.epipen.jp/)を携帯している方は使用します。体位は、足を頭より高く上げた体位で寝かせます。また、嘔吐してしまう場合に備えて、顔を横向きにします。アナフィラキシーショックの場合は必要に応じて心肺蘇生を行います。ただし、医療機関外で行える応急処置には限界がありますので、改善傾向を示しても速やかに医療機関を受診することが重要です。

③ 診断後の生活

ラテックスアレルギーと診断された場合、もしくは疑われた場合は、日常生活のあらゆる場面で、できるだけ天然ゴムに触れないように心がけてください。症状が進行しないように、日常生活、医療用具に注意して、医師と具体的な回避の方法を考えます。職業でどうしても接触せざるを得ないときは雇用者に伝えて接触しない環境で就業できるようにしてください。完全に除去することができれば、過敏性の改善が得られる可能性があります。最近では医療用具だけでなく日用品でもラテックスフリーの製品が増えていますので、ラテックスに感作された人はラテックスフリーの製品を使用するように心がけてください。
また、ラテックスアレルギーであることを示す『アレルギー情報カード』などを持ち歩くことが推奨されます。そして症状出現時に備え、アドレナリン自己注射薬(エピペン®)や抗ヒスタミン薬の携帯を医師と相談してください。

6.ラテックスアレルギーの予防

1)1次予防(未だラテックスアレルギーを発症していない方):
ラテックスアレルギーを発症した場合、天然ゴムを回避して生活する必要があります。以下の①~③のようなラテックスアレルギーを発症しやすい方は、できるだけ天然ゴム成分(ラテックス)に触れないように心がけ発症しないようにすることが何より重要です。医療用具には天然ゴム成分が含まれていることの表示が義務づけられていますので、医療機関を受診するときは医師・看護師に伝えて医療用具を選んでもらうようにします。

① 医療従事者
かつては手袋など医療用具の多くに天然ゴム製品が用いられていたため、天然ゴム製手袋を頻回に使用する医療従事者では発症する人が多かったのですが、最近はラテックスアレルギーの原因となるタンパク質量が低下した「パウダーフリーラテックス手袋」や天然ゴム成分を含まない「ラテックスフリー(パウダーフリー)」の製品が製造されて、それらの普及とともに発症する人が減ってきています。

② アトピー体質を持つ人
アレルギー反応が生じやすい人はラテックスアレルギーを生じるリスクが高く、特にアトピー性皮膚炎の患者さんが多い傾向があります。また、前述のラテックス-フルーツ症候群のように、ラテックスは、バナナやアボカド、キウイフルーツ、クリ、トマト、パパイア、ポテトなどの植物性食品のアレルギーとも関連性があることから、これらの食物アレルギーがある人も注意が必要と思われます。

③ 頻回に医療対応が繰り返された人
生後間もなくから繰り返し手術を受けるなど、天然ゴム製の医療用具を長期的に使用せざるをえない患者さんも、皮膚や粘膜から感作されるリスクが高く、ラテックスアレルギーの発症率が高い傾向にあります。最近は医療従事者の場合と同様にラテックスフリー(パウダーフリー)製品の普及で減ってきています。

2)2次予防(ラテックスアレルギーの症状が誘発されている方):
1次予防と同様に、日常生活のあらゆる場面で、できるだけ天然ゴムに触れないように心がけてください。職業でどうしても接触せざるを得ないときは雇用者に伝えて接触しない環境で就業できるようにしてください。自分がラテックスアレルギーであることを示す「アレルギー情報カード」などを持ち歩くことが推奨されます。さらに、ラテックスアレルギーで重い症状になったことがある人は、医師と相談してアドレナリン自己注射薬(エピペン®)や抗ヒスタミン薬を携帯してください。

Appendix.天然ゴム製品により引き起こされる皮膚障害の種類

天然ゴム製品により生じる皮膚障害は、ラテックスアレルギーだけではありません。疾患の種類によって治療法が異なり、アナフィラキシーのリスク管理のために、正しく鑑別することはとても重要です。

○ラテックスアレルギー

ラテックスアレルギーはIgE抗体を介した即時型過敏症(即時型アレルギー)です。

・原因:天然ゴム製品に含まれるラテックスアレルゲンや、手袋に付着しているパウダーに吸着して空気中に飛散したラテックスアレルゲンが皮膚や粘膜から入ることが原因になります。

・症状:手袋を装着した手指に、かゆみを伴う赤み、わずかに盛り上がった赤い斑点(膨疹)や腫れ(腫脹)などが生じることがあります。天然ゴム製の手袋に触れて数分後に症状があらわれますが、手袋をはずすと消えます。まれに重篤なアナフィラキシーショックを生じることがあります。

○刺激性接触皮膚炎

天然ゴム製品で最も多く生じる反応です。

・原因:手あれの状態で手袋を装着することや手袋に塗布されているパウダーなどによる摩擦が原因になります。

・症状:ゴム手袋を着けたときに、かゆみや手の表面に赤みや痒み、乾燥を生じます。ヒリヒリ感や水平状の割れ目などを生じることもあります。

○アレルギー性接触皮膚炎

ラテックスアレルギーの即時型過敏症に対して、アレルギー性接触皮膚炎は遅延型過敏症と呼ばれます。

・原因:天然ゴムの採取時や天然ゴム製品の製造過程で加えられた低分子量の化学物質(ゴムの弾性や耐熱性、耐疲労特性などを持たせるために使用される加硫促進剤や老化防止剤など)が皮膚に接触することが原因になります。

・症状:かゆみや乾燥、亀裂を伴う湿疹、いわゆる手荒れの症状が、接触してから数時間~2日くらい経ってから始まり(遅延型アレルギーといいます)、数日程度続きます。

参考:日本ラテックスアレルギー研究会『ラテックスアレルギー安全対策ガイドライン2018』